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京鹿子娘道成寺の魅力は

  • 執筆者の写真: F towako
    F towako
  • 2024年10月3日
  • 読了時間: 5分

更新日:2024年10月6日

先日、長唄も習っているお稽古仲間(この方)が、長唄の発表会で「京鹿子娘道成寺」を唄うというので行ってきました。


歌舞伎舞踊「京鹿子娘道成寺」の構成:

  1. 乱拍子花の外には松ばかり〜〜〜暮れそめて鐘や響くらん

  2. 中啓の舞鐘に恨みは数々ござる」「初夜の鐘を撞く時は 諸行無常と響くなり~~」

  3. 手踊り言わず語らぬ我が心 乱れし髪の乱るるも ~中略~ どうでも男は悪性もの 桜々と謳われ ~中略~ どうでも女子は悪性もの〜〜

  4. まり唄(廓づくし)恋の分里 ~中略~ 張と意気地の吉原 ~中略~ それがほんに色ぢゃ ~中略~ 思い染めたが縁ぢゃえ

  5. 花笠踊り「梅とさんさん桜は~~」

  6. クドキ「恋の手習い ~中略~ 露を含みし桜花 さわらば落ちん風情なり

  7. 羯鼓(山づくし)面白の四季の眺めや 三国一の富士の山~~~ 

  8. 振り鼓「園に色よく ~中略~ 早乙女 早乙女 田植え唄 ~~~ 

  9. 鐘入り「花の姿の乱れ髪~中略~竜頭に手を掛け飛ぶよと見えしが引きついでぞ失せにける

長唄の演奏会では、舞踊の構成でやるのは珍しいようですが、この日はクドキをカットした構成で20分間演奏されました。



「京鹿子娘道成寺」の魅力:

  1. テーマである「女の執念」

  2. 歌舞伎の作劇法ならではの決め付けられない複雑なキャラとストーリー

  3. 日本文化のおける景物

  4. 演出上のアクセント「◯◯づくし」



1. テーマである「女の執念」


物語の骨格は、道成寺伝説にあります。

美しい僧「安珍」にずっと恋をしていた娘「清姫」は、ある晩安珍に言い寄りますが、逃げられてしまいます。安珍が逃げた先は道成寺の鐘の中で、清姫は追いかけるうちに蛇体に変身してしまい、安珍が隠れる鐘に巻きつき安珍もろとも焼き殺してしまうというものです。

鐘に恨みは数々ござる」の歌詞の通り、鐘には恨みがありますが、安珍を焼き殺したかったのではなく、清姫が鐘に巻き付いたら安珍は焼け死んでしまったのであって、鐘に恨みはあるのですが、安珍にあるのは激しいまでの恋心だけです。

男に愛を拒絶された女が、恋の執念のあまり男を殺してしまうというテーマは、芸能には格好の素材です。これが魅力の一つと言えます。



2. 歌舞伎の作劇法ならではの決め付けられない複雑なキャラとストーリー


能「道成寺」では道成寺伝説をモチーフにして、一人の女の執念が描かれますが、

歌舞伎舞踊「娘道成寺」では、一人の女の、一つの恋を描いているのではなく、いく人もの娘が体験したであろういろいろな姿が描かれます。


構成を見て分かる通り、「京鹿子娘道成寺」には道成寺伝説と関係のない小唄がメドレー形式で取り入れられています。

それは江戸時代の歌舞伎の作劇法にあるようです。

江戸時代の劇作家はまず「世界定め」という動かない設定を作り、これが縦糸となり、ここに作者の個性となる「趣向」という緯糸を変幻自在に織り込み、簡単に決めつけることのできない複雑なキャラとストーリーを作り出します。

ハイカルチャーである能と違って、歌舞伎は庶民の娯楽。こうした歌舞伎の作劇法によって観客は、女の恨みだけではない、華やかな舞台を楽しみ、身近な娘を見るようにのめり込むことができたのでしょう。

これについては、いずれ詳しく書きたいと思いますが今日はここまで。


坂東玉三郎も娘道成寺について「恨みと華やかさを織り込むことが芸術」とテレビでコメントしておりました。これも「京鹿子娘道成寺」の魅力の一つです。


作劇法の参考まで:歌舞伎用語案内



3. 日本文化のおける景物


自然への畏敬の念、季節の移ろいに喜びを感じることは、日本人の特徴と言われています。

能に多く取り入れられている和歌で重視されるように、その後の芸能である歌舞伎でもこの傾向があると考えられます。

「京鹿子娘道成寺」では「桜」が景物として用いられています。

舞台には桜爛漫の背景に、踊り手の衣装、地方(三味線や唄、囃子方)の衣装にも桜が使われています。

今回は舞踊の舞台ではなく、長唄のみでしたので、目では景物を味わえませんが、歌詞に含まれる「桜」を堪能することができます。



4. 演出上のアクセント「◯◯づくし」


連想的に数多くの言葉を集める「◯◯づくし」というものの始まりがいつかわからないのですが、名所づくしである◯◯八景というのは、人々の間で謡い継がれて伝わってきたようです。

演劇評論家の渡辺保先生が娘道成寺の山づくしについて「山の名は実際の山も多いのですが、一つの名所、歌枕の山々。文学の中で「山」と呼ばれたものを集めた虚構の世界です。『づくし』にはものの名前や場所の名を呼んでその精霊を集める呪術的な意味があり、一つの世界を作ろうとする想いが隠されています。」という旨のことを言っていたことのように記憶しています。


能や歌舞伎、日本舞踊でも数多く登場する「◯◯づくし」の効果や歴史について、まだまだ知らないことも多く、今後さらに掘り下げてみたいと思っております。

舞踊の舞台では、演者の踊りに意識が集中しやすいため、長唄の演奏だけを聴くのは歌詞を堪能するいい機会となりました。



今回のように踊りのない長唄だけの「京鹿子娘道成寺」でも、こうした魅力を感じることができました。

お稽古仲間のKさんは声量があるので、それだけ表現が豊かになるのでしょう。

何より、気持ちよさそうに歌っていました!




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